人面犬
ある男性が深夜飲食店でアルバイトをしていた。
お店はもう閉店の時間となり、いつものように男性は厨房で出たゴミをまとめて店の裏口にあるゴミ箱へ出すことにした。
店の裏口は細い路地に面していて、深夜ということもあり人通りは全くなかった。
(ゴミをあさっている犬がいるな・・)
ふと見ると店のゴミを集めているところで一匹の犬が顔を突っ込んでゴミをあさっていた。
邪魔だと思いながらも男性は近くに行けば犬も逃げるだろうと大きく膨らんだゴミ袋を引きずるようにしてゴミ捨て場へと近づいた。
普通の野良犬なら人間の気配がすれば直ぐに逃げるのだが、その犬は一心不乱にゴミをあさっていた。
これ以上散らかされるのもなんなので男性は思わず犬相手に
「おい、コラ!あんまり散らかすなよ!」
と声をかけた。
その声に男性のほうをゆっくりを振り返る犬。
しかし、それは「犬」ではなかった。
犬の体に人間の顔を持った「人面犬」だった・・・
1990年前後に全国的に大流行した都市伝説です。
このブームに乗じて「人面○○」というものがよくマスコミで取りざたされました。(人面魚や人面蜘蛛など)
一種の社会現象に近かったように思います。知名度では1、2を争うこの都市伝説には他にもいろいろなパターンがあります。
・ゴミをあさっている人面犬は「ほっといてくれ・・」と疲れた様子で店員や通行人に話す。
・高速道路を走っており、人面犬に抜かれた車は事故を起こす。(死亡事故も)
・助走なしで6mも垂直に飛ぶことの出来る驚異的な身体能力を持つ。
・人面犬は交通事故で死んだ犬(または人)の霊である。
・人面犬はとある研究所で人工的に作られた生物であり、その研究所を脱走してきた。
などなど・・・
私はちょうどこの頃小学生だったもので、かなり人面犬にビビッていて、通学路では『人面犬に遭いませんように
』と念じながら登下校していたのは今となってはいい(?)思い出です。
しかし今ではこの本編(?)以上に面白いのは、いったい「人面犬の噂の発祥はどこなのか?(誰が広めたか)」ということである。
・この時期に発売されていた雑誌「ポップティーン」の編集者であった石丸元章が読者からの投稿に手を加え、人面犬の話を作った。
・タレントの的場浩司が自分とその仲間(友人や知り合いのDJ)が人面犬の噂を広めたとテレビ番組(ダウンタウンDX)で語っていた。
・ある放送作家の友人が実験(小学生たちに「研究所から人間の顔を持った犬が逃げ出したんだけど、知らない?」と声をかけた)で人面犬の話をしたら一気に広まった。
・つのだじろう作の「うしろの百太郎」に出てきた霊犬ゼロ(人間の顔をした犬でテレパシーで主人公と会話ができる。)がモデルである。
というようにむしろこちらの方が都市伝説じみているのは気のせいだろうか。
それに、くだん(人間の顔をもつ牛)や鵺(ぬえ・人間も混ざっているという説も有)など昭和以前にも日本には人間の顔を持つ獣の話は存在しており、これの話が人面犬の下地になったことも大いに考えられる。
これといった決定打もでそうにないため、人面犬はどこから生まれたか?というテーマについては結論が出される日が来ることはまずないであろう