ひきこさん1


ひきこさん1(都市伝説から生まれる怪人・妖怪)

 

和樹は小学六年生。元気が自慢の男の子です。

いつもの帰り道は、友達と一緒に遊びながら帰るのですが、その日は午後から急に大雨になってしまったので、もともと学校から家が遠くにある和樹は、一人で学校から家に帰りました。

早く家に帰ろうとして、その日はあまり通ることのない近道を使おうかと和樹は考えました。

その道は、晴れた日でも人通りの少ない路地裏です。しかも今日は雨が降っているので、あたりはだんだん暗くなり、不安になりましたが、もう六年生です。来年には中学生になるのだからと、自分に言い聞かせ、和樹は近道を使うことにしました。

細くて長い路地裏をしばらく歩いていると、遠くで何かがうごいているのが見えました。

和樹はなんだろうと眼を細めると、それは女の人だということが分かりました。

女の人は背がとても高く、白っぽい服を着ていました。そして、なぜか大きい人形をずるずると引きずっています。人形はかなり大きくて和樹位の大きさがあります。

女の人は和樹の方へ向かってきています。それが近づいてくるにつれて、和樹は背筋が凍るのを感じました。

まず、女の目と口が真横に裂けていることにも驚きましたが、そんなことよりも、女が引きずっていたのは人形などではなく、本物の小学生だったのです!そのすさまじい光景に和樹は足が止まり、女の方を見たまま固まってしまいました。しかし、もう女はすぐそこまで来ていたのです。

和樹に気が付いた女は急に、

「私が、私が醜いか〜!!」

そんなふうに叫ぶと、いきなり和樹を追いかけてきました。

和樹は夢中で女から逃げました。もうどこをどう通ったか分かりません。気が付くと、自分の家の前でした。周りを見ましたが、もう女は追ってきてはいないようでした。

 

その日、和樹はふとんを頭からかぶり、今日あったことを思い出してガタガタと震えていました。夕ご飯のときもお父さんに

「和樹どうしたんだ?元気がないぞ?」

いと言われても

「気のせいだよ、今日は友達と遊べなかったしね。」

としか言えませんでした。女のことを話しても、大人は絶対に信用してはくれないと思ったからです。

 

次の日は良く晴れていて、和樹はほっとして元気を取り戻しました。しかし、昨日あったことを忘れたわけではありません。

 

その日の放課後、和樹は教室に残って遊んでいた、也と俊之に、昨日の帰り道にあったことを真剣に話しました。2人とも和樹の親友です。しかし、2人ともあまり信じてくれませんでした。特に俊之はボーっとして窓の外を眺めながら話を聞いています。

 

そのとき、ポツリポツリと雨が降ってきました。時計を見るともう五時を回っていて、和樹は、昨日のことをさらに強く思い出してがたがたと震えだしました。       その様子をみて、もしかして本当なのか・・と思った文也は和樹を慰めようとしました。しかし、そのとき窓の外を見ていた俊之が大声を上げたのです。

「おい、見ろよ!和樹が言ってたのってあの女じゃないか?」

2人がいっせいに窓の外を見ました。

「あっ!」

和樹はおもわず声を上げました。降り出した雨の中、女が校門のところに立っています。昨日和樹が見たあの女に間違いありません。白い服を着てぼーっと立っています。

「あいつだ!あの女だ!」

和樹が震えた声でそういいました。

「じゃあお前のいって話は本当なのかよ!」

さっきまで全然信じていなかった俊之も、校門に立っている女を見て、急に恐ろしくなりました。

女はいきなり顔を上げて、すっかりおびえている3人の窓のほうを恐ろしい表情でにらみ付けました。そして、昨日和樹を追いかけたときのように「醜いか〜!醜いか〜!」と叫びながら校舎の方へ走ってきました。女の走り方はとても奇妙で、まるでカニのように横向きに走っています。しかも、今日は何も引きずっていないためか、ふつうでは考えられないようなものすごいスピードで校舎に入ってきたのです。

それが限界でした。3人はパニックになり、教室からいっせいに逃げ出しましたが、もう女は下の階まで来ているようで、バタバタ!ペタペタ!と、はだしで廊下を走る音が聞こえています。

3人はばらばらになって女から逃げました。

明と文也は一緒に逃げて、となりどうしにある理科室と図工室に逃げ込みました。文也は図工室の窓際にある掃除用具入れに、俊之は理科室の先生の机の下に隠れました。

和樹はトイレに猛ダッシュで駆け込んで、カギを閉めました。

 

バタバタ・・・・ペタペタペタ・・・ドタドタッ!

 

夜の学校に女が早歩きで探し回る音が響きます。そしてときどき女の叫ぶ声も聞こえます。三人とも、隠れていた場所でガクガクと震えていました。

 

 

どれくらい時間がたったでしょうか。学校に朝日が差し込んできました。夜が明けたのです。

しばらく前から女の足音は聞こえなくなっていました。

文也は一晩中しゃがんで隠れていた理科室の机から顔を出し、女が周りにいないことを確かめると、俊之が逃げ込んだ図工室へ向かいました。俊之も掃除用具入れの隙間から文也が図工室に入ってくるのがわかると、ようやく出てきました。

「俊之も無事だったのか。」

文也は安心してため息をつきました。

「俊之がオッケーなら、あとは和樹だな。あいつは大丈夫だったかな?」

しかし、俊之は震えながらこう答えました。

「俺、掃除用具入れの隙間から見ちゃったんだよ、和樹は夜中、あの女に引きずられて学校の外へ連れて行かれたよ・・・和樹はどこに隠れていたかわからないけど、たぶん見つかっちゃったんだろうな。俺は、もしかしてあの女がまた帰ってくるかもしれないから、じっと隠れてたんだ。」

 

和樹はいまでも行方不明です。

 

これが白い服を着た謎の怪人、ひきこさんと呼ばれる女性の怖い話です。


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