ベットの下の男


あれは思い出したくもありませんが、私が大学に入って2ヶ月ほど経ったころのことでした・・・

 

私は、この春に見事試験に合格して、自分が入りたかった大学に入学することが出来ました。

そして、親と一緒に住んでいた実家を離れて、東京でこれも夢だった一人暮らしをすることになりました。不安も多かったですが、やがて大学にも一人暮らしにもなじんできました。

そんなころ、昔からの親友の知美が自分のアパートに遊びにくることになりました。

おたがい、同じ東京の大学に進学したのですが、入学してからは二人とも忙しかったので、会うことが少なかったのです。そんなこともあって、私は久しぶりに知美が遊びに来ることをとても楽しみにしていました。

その日、和美は約束どおり私のアパートへやってきました。

しばらく会ってないように思えましたが、2ヶ月前まではよく遊んでいたので、まったく変わっていない和美になんだか安心しました。

「こんにちは、由香。ひさしぶりだね!」

「うん、和美もひさしぶり。さ、部屋にあがってよ。」

私はこころよく和美を部屋に上げました。

早速おやつの代わりに準備していたお菓子とお茶を入れて、和美とおしゃべりを始めました。2ヶ月しか会っていないといっても二人とも別々の大学に入ったのでつぎからつぎへと話が止まりません。

どんな勉強をしているのか、どんなクラブ(サークル)に入ったのか、友達はできたか、かっこいい男の子はいるかなどなど話題には不足しませんでした。

 

「あ、もう夕食の時間だね。ねえ由香、この辺にどこかおいしいお店ないかな?」

「そうだね、最近パスタのおいしい店を発見したから、そこに行ってみようか?」

「いいね、そこにしようよ。」

私と和美の二人は、いったん部屋を出てアパートからそれほど遠くないイタリア料理のお店に行きました。

そのお店のパスタはおいしくて、和美とのおしゃべりはますます盛り上がるばかりで、結局お店を出たときには、かなり遅くなっていました。

 

「もうこんな時間になっちゃったね」

 

「うん、いろいろ話したもんね。由香が行ったとおりお店のパスタもとってもおいしかったから。」

和美もお店をほめてくれて、私はなんだかうれしくなりました。

「やだー、私そろそろ帰る電車が行っちゃう時間だよ。」

和美は腕時計を見てちょっとあせっていました。電車に乗り遅れると帰れなくなってしまうのです。

「ねえ和美、明日何にも予定がないなら私の家に泊まっていきなよ。」

せっかく遊びに来たのに、このまま帰ってしまうものなんだかもったいない気がした私は和美を呼び止めました。

「そうだね、明日はお休みだし、ゆかの部屋に泊めてもらおうかな〜」

話が決まったところで、また二人で私の部屋に帰りました。それからも二人の好きなテレビを見たりして、眠くなったので二人とも寝ることにしました。私は自分のベッドで寝て、和美はベッドの横にお客さん用の布団を敷いて電気を消しました。

 

私は和美と話しつかれたのか、すぐにウトウトし始めました。そして、電気を消して10分ほどたった頃でしょうか・・・

 

ゆさゆさと、和美が私の体を揺さぶったので目が覚めました。

「ねえ、由香、コンビニいかない?」

私を急に起こしておいて、そんなことを和美が言います

「う~ん・・・和美〜いきなり何言ってるの?」

私は急に起こされたので、不機嫌そうに言いました。

しかし、和美は私をさらにゆすりながら

「いいじゃん、行こうよコンビニ。私、急にアイスが食べたくなっちゃった!」

「ひとりで行けばいいじゃん!それにコンビニなら、さっきのイタリア料理の3つとなりににあ・・・」

「いいから行こうよ!ねえ由香!」

私の話をさえぎって、和美はさらに言います。コンビニなら、さっき行ったイタリア料理屋さんの3つとなりにあるんです。お店を出るとき和美だって見たはずなのです。

和美がこんなわがままでジコチューな奴だとは思いませんでした。大学入って、全然変わっていないと思っていたのは間違いだったのかな?と私は思うようになりました。

まあ近所のコンビニだし、すぐに戻ってまた寝ればいいか・・・

「しょーがないなー、コンビニ行きますよ〜いけばいいんでしょ?」

「本当?ありがとう!」

というわけで、私はわがままにあきあきしながらも、しぶしぶ和美とコンビニへ行くことにしました。

 

部屋を出て、アパートの階段を下りると、いきなり和美が私の手を凄い力で握り締めて一気に走り出しました。

私はおどろいて、手を握られたまま和美と同じように走る格好になったのです。

私もいいかげん怒って

「和美!さっきからひどいよ!それにコンビニ行くんでしょ?こっちは駅の方角だよ!」

いきなり起こされたり、一緒に走らされたり、私はもう我慢の限界でした。

「大きな声を出さないで!今から駅前にある交番にいくのよ。」

「え?交番?なんで交番なの?」

そして、和美はこう言ったのです。

「だって、私、みちゃったの!由香のベッドの下に、包丁を持った男が隠れているのを!」

 

結局、その男は警察に逮捕されました。

 

もし和美が起こしてくれず、二人とも完全に寝てしまったら、きっとベッドの下から這い出してきた男に・・・


かいせつ

 

イヤー怖いね〜。「ベッドの下の男」。

でも、これ都市伝説の定番中の定番なんだ。給食でカレーが出るくらいの割合でよく聞く話だよ(笑)

有名な話だからいろんなパターンがあってね、話の中では包丁を持っていたけど、別の話では斧だったりするんだ。

この話の怖いところは、自分が眠っている真下で凶器を持った男が気配を殺して体を隠しているというところだろう。だれだって、そんな身近にまったく知らない人が凶器を持って隠れていたら怖いよね。

それでね、この怖い話が実際に起こったものなのかどうかって事なんだけど、その可能性はまずないといっていいと思う。

都市伝説が好きな人や、変な事件を調べている人たちが、頑張ってさがしてもこのようなニュースはなかったそうだ。

だけど、この話が何年か前のアパートを紹介する雑誌に載っていたんだよね。本当の話として。

これにはちょっとビックリしたけど、理由がきちんとあって、アパートの雑誌を作っている人たちは、なるべくこういう事故を起こしてほしくない。つまり、戸締りやどろぼう対策をきちんとしてほしいという願いをこめてその記事を書いたんだと思う。

それを読んで、あたらしく住むアパートでは絶対にカギをかけよう!と思った人も多くいたはずだ。

 

おじさんとしての結論なんだけど、そういう事件は起こっていないんだし、この都市伝説のおかげで、戸締りやどろぼうなどに気をつける人が増えるのだから、これはいい都市伝説なんだと思うね。

みんなもカギの戸締りや防犯をきちんとしてほしい。

だって、みんながベットの下に忍び込んだ男の、最初の被害者になるのかもしれないのだから・・・


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