一家の供養

会社の先輩である田中さんから聞いた話。

彼女の伯父がある日、家系図を調べていた。
そしてあることに気が付いた。
遠く離れた親戚ではあるが、無縁仏(むえんぼとけ)のような形でしっかりと弔われていない一家があった。
おじさんはそれを知ってしまったし、無関係ではないので、せめてもの供養になじみのあるお寺でお経だけでもその家族のためにあがてもらい成仏してほしいと思った。
そのことについて自分の母親、三島さんにとってはおばあさんに相談したのだが、猛反対されたのだという。
「そんな関係のない一家の供養をなんでお寺にお願いするのか?なによりもお金がもったいない。お坊さんだってただじゃ動いてくれない。」
というのがその理由だった。

伯父さんはお金は俺が出すから一緒に来てくれよ、とお願いして仕事が休みの日に嫌がるおばあさんを連れてお寺に行った。
本堂に行く途中にもおばあさんはこんなところに来たくなかったと悪態をついていたという。

お寺着くと、事前に連絡してあった住職に仏壇が置かれている部屋に通されてた。
伯父とおばあさんは正座をして仏壇に向かってお経を唱え始めた住職の背中をじっと見守っていた。

お経が始まってしばらくすると、不思議なことが起こった。
仏壇の右手のふすまに黒いしみが浮き出てきて人の形になった。
黒い影は仏間に入ってきた、そしてゆっくりした足取りで仏壇の横まで移動した。
仏壇の近くまでくると、伯父さんのほうにさっと会釈をしたように見えたという。
それから黒い影は仏壇に吸い込まれるように消えた。

それが3度、繰り返された。
3という数字は今日弔われている一家の人数と一致した。
唖然とする伯父さんは驚きのあまり声が出せなかった。

読経が終わり、住職に礼を述べ、お寺からの帰る途中
自分と同じ影を見なかったかと母親に聴いた。
「そんなものなんて見るわけないじゃないか。正座して足が居たくなっちまったよ、それにお前いくらお寺に包んだんだい?全く無駄なことを……」
そこで彼女は寺の石畳に足を滑らせ、腰の骨を折ってしまった。
それから20年死ぬまで寝たきりで過ごすことになったという。

ちなみに伯父さんはというと、お寺に行った日から数ヵ月後にあっさりと亡くなってしまったという。
「よくわからない話でごめんね。」
と田中さんは語った。


この話を聞いた私も不思議な気持ちになった。
しかし暫くしてこの話を一度思い返した時、あることに気が付き鳥肌が立った。

仏間に現れた黒い影、あれはおそらく弔ってもらった一家なのだろう。
彼らにとって自分たちを成仏させてくれた伯父さんはすごくいい人なのだろう。
良い人とは出来るだけ一緒に居たい、こちら来てほしいという願いからすぐにあちらの世界に呼んだのではないか。
一方でお寺でのお経を最後まで反対していたおばあさん、一家にとってはいくら嫌っても足りないくらい怨むべき存在である。
出来るだけこっちに来てほしいない、そして苦しみを味わってほしいという気持ちなのか寝たきりにして20年以上生かしたのではないだろうか。

今でも思い出すと空恐ろしい気持ちになる話である。