自動車泥棒

アメリカのある都市に住むサラリーマンの男性が
その日も出勤のため家の車庫を見ると大変な事に気づきました。

自分の車がなくなっているのです。
妻にもこのことを話し、警察にも盗難届けを出して夫婦も辺りを探しましたが
自動車は見つかりません。

ですが数日後、車はあっさりと戻ってきました。
家の前に止められており、洗車もされ以前よりもきれいになっていました。
そして助手席には封筒が置かれていました。
それには
『やむ得ぬ事情のためにあなたの車をお借りました。
このように報告が遅くなってしまい大変申し訳ありません。
しかし、この自動車のおかげでとても助かりました。
ありがとうございます。
お詫びといっては何ですが、ショーのチケットを同封させていただきました。』
とかかれており封筒の中からは入手困難なミュージカルのペアチケットが出てきました。

なにはともあれ車も戻ってきたし、人の役に立つことができたしチケットももらったので
夫婦はこの自動車泥棒の恩返しを受けることにしたのです。

ミュージカルの当日、ピカピカの車で会場へ向かった夫婦は
極上のショーを堪能しました。

そしてミュージカルも終わり、満足した夫婦は自分たちの家へ戻ってきました。

「夜も遅いしそろそろ寝ようか」など軽口を叩きながら鍵を開けると夫婦は絶句しました。

家の中には何もなかったのです。

「まさか……泥棒?」

顔を見合わせる夫婦にはこの泥棒の心当たりがありました。
そう、この時間にミュージカルを見るために家を空けることを知っていた人間。
あの自動車泥棒だということを。


解説

読めば読むほど見事な犯行だと感心させられます。

「他人の善意には無駄にできない」という心の隙間を狙った
これに類する犯罪がそろそろ起こる気がしてなりません。