その日も出勤のため家の車庫を見ると大変な事に気づきました。
自分の車がなくなっているのです。
妻にもこのことを話し、警察にも盗難届けを出して夫婦も辺りを探しましたが
自動車は見つかりません。
ですが数日後、車はあっさりと戻ってきました。
家の前に止められており、洗車もされ以前よりもきれいになっていました。
そして助手席には封筒が置かれていました。
それには
『やむ得ぬ事情のためにあなたの車をお借りました。
このように報告が遅くなってしまい大変申し訳ありません。
しかし、この自動車のおかげでとても助かりました。
ありがとうございます。
お詫びといっては何ですが、ショーのチケットを同封させていただきました。』
とかかれており封筒の中からは入手困難なミュージカルのペアチケットが出てきました。
なにはともあれ車も戻ってきたし、人の役に立つことができたしチケットももらったので
夫婦はこの自動車泥棒の恩返しを受けることにしたのです。
ミュージカルの当日、ピカピカの車で会場へ向かった夫婦は
極上のショーを堪能しました。
そしてミュージカルも終わり、満足した夫婦は自分たちの家へ戻ってきました。
「夜も遅いしそろそろ寝ようか」など軽口を叩きながら鍵を開けると夫婦は絶句しました。
家の中には何もなかったのです。
「まさか……泥棒?」
顔を見合わせる夫婦にはこの泥棒の心当たりがありました。
そう、この時間にミュージカルを見るために家を空けることを知っていた人間。
あの自動車泥棒だということを。
解説
読めば読むほど見事な犯行だと感心させられます。
「他人の善意には無駄にできない」という心の隙間を狙った
これに類する犯罪がそろそろ起こる気がしてなりません。
「他人の善意には無駄にできない」という心の隙間を狙った
これに類する犯罪がそろそろ起こる気がしてなりません。