見ていた女1

ある男子学生がひとりで夜の神社へ肝試しに来ていた。
そこは「出る」といういわくつきの神社だったが、
彼は「怖いものなど何もない!まして幽霊などいるはずがない!」
と言ってはばからない人間だったのでひとりでやって来たのだ。

彼は誰もいない境内をうろついたが、何も起こらない。
もちろん幽霊などは影も形もなかった。
『やっぱり何もでないじゃないか・・・』と思っていると、
神社の奥の木々の間から「コーン、コーン」という音が聞こえてきた。

その音に興味を引かれた彼はどきどきしながら木を掻き分けて
音のほうへ歩いていった。
そして見てしまったのだ。
白装束を着て、わら人形を打ち付ける女を。
「コーン!コーン!」
わら人形には五寸釘が深々と刺さっていた。

「うわっ!」
彼は思わず声を出してしまった。
その瞬間かなづちを打つ音が止まり、
女が彼のほうを振り向いた。
それは鬼気迫る鬼の形相だった。

女がこちらへ走り出すのと彼がその場から逃げ出すのはほとんど同じだった。
彼は無我夢中で走った。
ザッザッザッ!
だが女は土地勘があるのか彼との差を狭めているようだった。
「ヒヒヒヒヒヒ・・!」という女の叫び声も後ろで聞こえる。
『このままでは捕まってしまう!』そう思った彼の視界に公衆トイレの明かりが見えた。

彼は一番奥の個室へ駆け込み鍵をかけて息を殺した。
静寂が辺りを包む。トイレのそばで女の足音がしたがそれも聞こえなくなった。
『助かった・・・のか。』だがまだ安心はできない。女が外にいるかもしれない。
しかし足音は聞こえない安堵感もあいまって彼は個室の中で眠ってしまった。

目が覚めて時計に目をやるともう4時を回っていた。
「もう大丈夫だ。」
そして帰ろうとした彼は立ち上がり何の気なしに天井のほうへ目をやった。
そこには白装束をきた女の不気味な顔があった。

女は一晩中、彼を上から見下ろしていたのだ。