ある海水浴場での話―
この夏、某大学の男子学生のグループが海水浴に来ていた。
泳ごうとすると、他の海水浴客の話が耳に入ってきた。どうやら、数日前に老婆が溺れて死んでしまったのだがまだ遺体が見つかっていないらしい。
少し驚いたが自分たちの気にするほどのことでもないと思い、彼らは夏の海を満喫した。
あたりが薄暗くなってきたのでグループのメンバーは浜辺に上がり、予約してある民宿に戻ろうということになった。
だが、メンバーの一人であるAが
「まだ泳ぎ足りないから、もう少し泳いでから宿に戻るよ」
と言ったので、Aを残して他のメンバーは宿に戻った。
ところが夜になってもAが戻ってこない。
気になった彼らは海に戻るとともに、警察に連絡をした。
Aは高校時代水泳をしていたので、溺れることはないと思っていたが夜を通しての捜索にもかかわらずAは行方知れずとなってしまった。
次の日の朝、捜索に疲れて寝ているメンバーのもとに、Aが遺体で発見されたとの連絡があった。
最悪の結果にショックを受けつつも、Aが打ち上げられた浜辺に向かった。
野次馬の中心に、警察の人間とAが覆われていると思われるビニールシートが見えた。
「こちらですが、確認をお願いします。」
彼らはビニールシートをめくるとすぐにAの顔が見えた。
「間違いなくAです。」
弱弱しい声で警察の鑑識に伝えた。
「それと言いにくいことなのですが……」
と、鑑識の人がビニールシートをめくった瞬間、全員が絶句した。
Aの下半身には般若のような形相をした老婆が抱きついていたのだ。
鑑識はこう続けた。
「なんとか引き離そうとしたのですが、爪が食い込んでいるようで離れないのです。生きている状態でないとこんなことはできないはずなのですが……」