おさかな

ある小学校1年生の教室での出来事―

この日、国語の授業では海の中を泳ぐおさかなについての話をしていた。
子供たちが使っている教科書には、海の中を泳ぎまわる魚のイラストも描かれている。
その授業のなかで、ある男の子が手を挙げた。
「先生、この教科書の絵間違ってるよ。」
「あら●●くん、どこが間違っているのかしら?」
元気のいい1年生は臆することなくこう言った。
「こんなのお魚じゃないよ、泳いでるお魚は違うんだよ。」
と教科書のイラストを指差している。
「いいえ、そんなことないわよ。お魚はこういう姿で、大きな海を泳いでいるのよ。」
「違うよ違うよ!こんなのお魚じゃないよ!」
先生はやさしく諭したが、子供は頑として聴かなかった。
「それじゃあ●●くん、ちょっと黒板におさかなの絵を描いてもらえないかしら?」
あまりにしつこいので、先生は男の子にみんなの前でおさかなのイラストを描いてもらうことにした。
こういうのも小学校1年生にはいい授業だと考えたからだ。
そして男の子がチョークを握り、黒板に絵を書き出すと先生の顔から笑顔は引きつったものに変わっていった。
チョークを置いて手の粉を払う男の子の後ろの黒板には、スーパーなどでよく見かける刺身の切り身が描かれていた。